格致日新を心に
格物致知。
物事の本質や真理を探究し極めていくことである。
「格致」はその略であり、「日新」は日々新たにという意味である。
「格致日新」とは、日々新たに物事の本質や真理を探究し、常に極みを目指し向上するものである。
しかし、出典元があやふやであり、どこから派生した言葉なのか不明である。
いつ耳にした言葉なのかも覚えていないのだが、心にしみている。
精神科での日々は格致日新である。
正解を追い求めながら、それが正解であったかどうかもわからないのだ。
福祉分野においてはエンパワメントが重視される。
本人の能力を活用し、力を持って行動できるようにするための援助だ。
個別化の原則にのっとり、目の前のクライエントに対してオリジナルの支援を展開する。
対人援助職の醍醐味でもあり、難しいところでもある。
先日のBさんの例ではうまく行ったことと、
A子とでは支援が違う。
もちろん、BさんとA子では疾患自体が違うのだが、例えばBさんと同じ統合失調症のCさんでは別の支援を行っている。
Cさんは30代の男性であり、発症は20代後半。
上京しIT関連の企業でSEに就いていた。
チームを組んでプログラミングをしていたのだが、不眠が続き、幻聴が出現した。
業務中でありながら、後ろを通る人から罵詈雑言を浴びせられるのだ。
ここで注意しておきたいのだが、果たしてそれが幻聴であったかどうか知るすべはない。
我々は、常識と照らし合わせて幻聴である可能性が高いと判断しているのだ。
もっとも、了解不能な内容(たとえば宇宙人からの妨害を受けているなど)であれば明らかに幻覚と認める。
Cさんは数カ月耐えたが、街中でも会社の人間から後をつけられるようになり、転職した。
しかし、自分の噂が転職先の会社にも伝わっており、仕事にならなかったという。
私がCさんと出会ったのは、ロールシャッハテストであった。
迫害感が強く、現実離れした内容であり、反応に乏しかったため統合失調症を主治医に提言した。
カウンセリングを行いながら集団療法を導入した。
集団療法において徐々に対人交流を取り戻して行ったが、カウンセリングは無断欠席が続き中止となった。
こちらの提示する就労復帰プログラムは拒否し、民間の就労以降支援事業所を利用し始めた。
多くの就労以降支援事業所では、医療福祉系の資格を持たない人がスタッフとして働いている。
医療連携を行うのだが、ベースが違うので困難である。
一般的なキャリアサポートが展開され、利用期限の二年を通所し一般就労を行った。
そしてCさんは断薬し再発した。
入院後、再び集団療法の場へと戻ってきた。
同じことの繰り返しを防ぐため、障害者雇用枠での就労サポートを行ったのだが、本人の能力に見合う就労先がマッチングできなかった。
希望が叶う企業では、面接に進むことができなかった。
精神障害だからである。
Cさんは就職活動疲れを乗り越えながら、障害をオープンにし一般職として就労することができた。
今回は服薬の継続を約束することができた。
服薬さえしていれば、誰からも統合失調症であるとは見えないのがCさんの特徴でもあったのだ。
格致日新。
1人ひとりにそれぞれの支援の仕方がある。
人生は人の数だけあるので、当然であろう。
本人の望む生活を実現することが我々の使命なのだ。
格致日新を心に、今日もクライエントの支援にあたる。