統合失調症患者への就労支援とカウンセリング
職場復帰を果たした日のカウンセリングで一ヶ月ぶりのクライエント(Bさん)と面談した。
Bさんは20代の統合失調症罹患者である。
症状は安定しており、症状に悩まされることは少ない。
集団療法が功を奏し、症状の軽減と社会復帰を実現した。
Bさんは高校在学中に発症し、高校を中退せざるを得なかった。
孤独感がBさんの発症の契機であったと推測する。
高校一年生の時には友人がいたのだが、進級すると話す相手がおらず孤立化した。
周囲と合わないと感じ始め、次第に自身の言動に注目するようになり、被害感情が芽生え始めた。
いわゆる中心化が起こったのである。
明らかな陽性症状は認められなかったが、妄想により通学できなくなり中退したのである。
父親に連れられて受診した時には、20歳を越していた。
主訴は「仕事ができない」ことであった。
まずは発達障害を疑い、知能検査を実施した。
結果は自閉症スペクトラムの問題は無く、平均知能のやや下くらいであった。
内向的な様子が伺えたので、ロールシャッハテストを行った。
ロールシャッハテストでは精神病を疑うサインが散見された。
その後のカウンセリングと病歴を聴取していくと、発症が穏やかに起こっている状態と判断できた。
アルバイトは継続したまま集団療法を開始した。
同時並行にしたことが彼の処理能力を越えてしまったのか、症状について語ることができるラポールが形成されたのか、身体の違和感を訴えるようになった。
妄想的な思考パターンも確認されたため、認知行動療法を行いつつ治療を行った。
集団療法を開始して一年半、妄想的な感覚は残っているものの身体の違和感が消失し、就労支援へと援助方針を再契約した。
就職活動は3ヶ月。
障害者手帳(3級)を取得し、障碍者雇用枠での就労を目指した。
障害者の求人で精神障害の就職率は高くない。
数か所の企業では、精神障害の雇用実績がないためと面接に進むこともできなかった。
地域の就労支援センター(地域活動支援センター)を併用し、ジョブコーチとコーディネーターのサポートを使うことにした。
三ヶ月目、短時間のアルバイトが決定した。
カウンセリングでは就労後のフォローアップを行っている。
仕事上の悩みや、人生設計など現実的な問題に取り組んでいる。
前回の話題は仕事の時間を増やしたいということであった。
職場からは資格を取得し時給アップをすすめられていた。
職場の上司の理解があり、相談できる風土であったために、上司に相談をすることとした。
そして今回、回答を持参された。
「時間を増やすなら、やる気を見せること」
それが上司からの返事であった。
本人はそこで主張が出来ず、提案を取り下げたとのことであった。
まずは、本人の希望を聴く。
すると、時間を増やすことにより勉強の時間が減るのは不安であるとのこと。
時間を増やす理由は、空き時間が多いからとのことであったが今回はどう捉えているのか確認する。
具体的に給与の話をされたことにより、目的は給与増に変化していた。
本人の意思を確認したところで、具体的な給与の計算を行った。
職場からの条件では、資格取得後は時間も少し延長し時給の微増を約束されている。
資格試験が年末にあるとのことであったため、まずは資格に集中することをすすめた。
本人は納得し、まずは資格のために現状のまま勉強するということを決めた。
統合失調症患者へのカウンセリングは、月並みな言葉ではあるが「伴走者」となることである。
クライエントのペースを見ながらアドバイスを行う。
本人の希望を最大限考慮し実現する。
隠されたニーズがなんであるのかを見極める。
そうすることで、本人の自己決定が促される。
自己決定のための情報の提示は必須だ。
Bさんがこれからも望む人生を送ってくれることが我々の願いなのである。