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脳に栄養を

心理士の緊急支援で求められるもの

公認心理士試験では、緊急支援や災害支援などが多く問題に出された。

求められる役割である、国民の心の健康の保持増進とは、このような支援が大きな柱となるように考えられる。

 

古来より日本は災害の多い地形である。

地理学的にも災害を引き起こしやすい。

防げるものがあれば防げないものもある。

このような災害が起こった時に、現臨床心理士会はチーム派遣を行っている。

2000年前後よりこのような災害支援への体制づくりが進められ、臨床心理士という専門性を生かしていかなる支援ができるのか模索しながら歩んできた。

 

学校心理では様々な事由により、生徒の心理的危機に対する緊急支援が求められる。

同じく臨床心理士会は学校にいる外部組織としての役割を最大限活かすとともに、専門性を用いて生徒への心理的介入を行ってきた。

 

公認心理士国家試験では、学校における心理支援の範囲を問う設問があった。

生徒だけなのか、その家族を含むのか、教員まで対象とするのか。

何をどこまでするのかを問われていた。

非常に難しい問題である。

なぜなら、支援に線引きをしなければならないからだ。

ソーシャルな状況に応じて支援範囲や内容は変化する。

しかし、どこかでチームとして行っていかなければならない。

早い段階でチームを作ることが望ましいのだが、心理士として大切な視点を忘れてはならない。

クライエントは何を望んでいるか。

である。

f:id:psycocoro:20181112095226j:plainPhoto by Sweet Ice Cream Photography on Unsplash

 

緊急支援の講習会に行くと、様々な支援の場に駆け付けた講師たちが話してくれる。

 

「実際、臨床心理士が何をしに来たんだって思われるんです」

 

数年前までは、とにかくデブリーフィング中心であった。

何はともあれデブリを行うことが心理的支援には欠かせないものであったのだが、そのような情報は曲解されていく。

周囲や体験者から、直後の心理支援は辛かったとの思いが語られる場合もあるのだ。

場合によっては追想体験を引き起こすこともある。

もっとも、圧倒的に負担が軽くなったという声ばかりではあるが、少ない意見を無視するわけにはいかない。

ユニバーサルデザインを心理支援に持ち込むことが重要だ。

このことを踏まえて、緊急支援の専門家達が今大切にしているのは、

 

まず招集し

すぐに現場に駆け付け

何を行うか関係者を交えて協議する

 

ことであるという。

ここまでの範囲をするという線引きがあるわけではなく、実際の場面を把握し、情報を整理し、最速で駆け付けその場で検討していくのである。

 

 

阪神大震災の被災者と話したとき、このように語られた。

「心理士なんていらんねん。今目の前で家が壊れとる。食べ物もないんや。明日生きられるかどうか必要な時に、心理的にどうですかとかほんまいらんねん。瓦礫の撤去をしてもらった方がなんぼマシやと思うわけや。そんなんええから、喰いもん持って来いって話やで」

 

その時はまだ10代そこそこであったという。

実際被害にあっていたかどうか疑わしい人物ではあったのだが、まるで今起こったことのように熱弁をふるっていたので、傾聴した。

その被災者は臨床心理士である。

本人が「必要ない」というからよっぽど必要ないのであろう。

しかし、それでも私はこう思う。

瓦礫の撤去をしたとき、食べ物が無く飢えている時、これから先のことを考えて絶望を感じた時に、誰かが大丈夫だと声をかけてくれたらどれだけ助かるだろうかと。

その時は思うだろう、大丈夫なわけがないと。

ほんの一瞬でもいいから心が軽くなってくれればと考えずにいられない。

できることは少ないし、実際心理的支援しか行わないわけではない。

チームとして復興支援を行いながら、できる限り心理的支援も行っている。

遠いところから大丈夫ですかと眺めているのではない。

その場でデブリを含めて何ができるのかを考えて、必要と考えて行っていることである。

ここまでしかやらないという線引きは難しい。

かといって、心理士だけが何かを行うわけではない。

緊急支援では、チームを作って互いの行動を確認しあい、その場で最も必要とされるものを提供していくのである。

 

 

緊急支援のアウトリーチ──現場で求められる心理的支援の理論と実践

緊急支援のアウトリーチ──現場で求められる心理的支援の理論と実践

  • 作者: 小澤康司,中垣真通,小俣和義,村瀬嘉代子,窪田由紀,槙島敏治,冨永良喜,片岡玲子
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