WAIS-Ⅲで群指数間の差が大きいがIQに優位差が無い場合
成人式ウェクスラーはWAIS-Ⅲが標準である。
直近で実施した検査から解釈の一助をお送りする。
まずは結果から(一部改変)。
FIQ=79 VIQ=85 PIQ=76
発達上の問題はなく、内容分析においても自閉症スペクトラム障害は否定される。
群指数は、
VC=76 PO=70 WM=107 PS=102
優位差が大きい。しかし、見てのとおり言語性と動作性それぞれに高低があり、IQ間の優位差が出なかったということである。
さて、このようなクライエントの所見はどのようになるだろうか。
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下位検査を見てみると、プロフィールシートのグラフにバラツキが大きいが、各群指数内での差が大きいということはなく、群指数は信頼できる。
一方組み合わせは評価点3と下位検査内で最も低い。
内容分析を進めると、各検査開始直後はは好調だが複雑になると回答できなく傾向がみられた。
思考努力を軽く行うが、「わからない」との表出が多くなっていき中止となる。
WMとPSが高いということは、基礎的な数学能力が優れており、日常的な機敏さにも恵まれている。
特に数唱が高かったこともあり、聴覚的な作動記憶の容量が大きい。
聴覚情報を並べ替え、単純で機械的な作業に優れている。
符号・記号探しなどからは、注意力や集中力に恵まれていて、ストレス耐性が強いことがわかる。
事務的な作業を正確にすばやく行う能力がある。
VC・POの低さは、知的好奇心が乏しく、一般的な事実に関する知識の幅が狭いということである。
内省力や洞察力が劣っていおり、本質の区別ができない。
視覚的な思考作業能力が劣っている。
注意力や熟慮性がかけているか、動機付けが劣る可能性もある。
では、どのような人物が想像できるだろう。
クライエントは、はっきりした内容の単純作業であれば高い能力を発揮する。
明確な指示や具体的な手順が提示されることが重要となる。
また、習得するまでのサポートを要するだろう。
対人サービスなどの応用力や臨機応変な対応を求められる業務においてはミスが生じる。
本人はそれを処理することができないうえに、なぜ問題が起こっているかを内製することが難しい。
その困難さは言語表出することができないので、自分で処理しようとし行き詰ってしまうだろう。
作業への取り掛かりはよく、途中まではこなせるのだが、複雑になると混乱が生じてしまう。
繰り返し行い身に着けることで、能力を発揮できるようになる。
諦めずに周囲を頼り、しっかり相談していくことが求められる。
クライエントは営業職で休職中の検査であった。
LoIQかと言われると、検査の数値上は神経発達障害との境界域に属するのだが、大学を卒業している。
学力が決して低いとは言えないのだが、対応能力が低いということがわかった検査であった。
この結果を勤務先に報告し、復職後の勤務調整や職場環境の整備がすすめられることとなり、クライエントは営業職から外れ、事務処理に就くこととなった。
最初は戸惑いがあったのだが、持ち前の処理能力の高さが発揮され、仕事が楽しくなってきたという。
職場での評価も上がり、以前よりも働きやすくなったと報告してくれ、通院は終了となった。
- 作者: エリザベス・O.リヒテンバーガー,ネイディーン・L.カウフマン,アラン・S.カウフマン,ナンシーマザー,Elizabeth O. Lichtenberger,Alan S. Kaufman,Nadeen L. Kaufman,Nancy Mather,上野一彦,染木史緒
- 出版社/メーカー: 日本文化科学社
- 発売日: 2008/10/01
- メディア: 単行本
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