心理的援助場面におけるブレインストーミング
A子の症例はご覧いただけただろうか。
今回検討する架空事例はこちら
X年某日、筆者にデイケア導入以来が届く。A子と対峙するのは三度目であり、前回デイケアは固辞していたため憂慮したのであるが、復職に必要との主治医の判断を本人が受け入れており、過緊張および過適応に本人が注意するよう導入した。数日後初回参加となる。当日のプログラムは軽作業であり、複雑な塗り絵であった。集団の中である程度集中していたが、一時間後表情を強張らせ、早退したいと申し出た。不思議に思った筆者は理由を尋ねることにした。すると、デイケア参加者にイライラが止まらない、これ以上我慢したら爆発してしまうとのこと。イライラの気持ちについて掘り下げると、偉そうにしていることが許せないという。普段はそのようにイライラしている時はどうするのかと尋ねると、爆発してパニックになるので、気づいたときに早めに対処する。これまでそうして色んなものから離れてきたが、こうして早めに対処すればなんとかなるかもしれない、あとは主治医と相談したい、と述べた。震えながら話すA子をこれ以上追い詰められた感覚にしてはと考え、早退を許可したのであった。
A子の基本情報については、上記の記事を参照されたい。
A子に対して適切な対処であったのかという点が、カンファレンスに挙げる理由であるが、純粋にA子の気持ちを知りたいという職業的好奇心に依るところが大きい。
検討点は①A子に何が起こったのか②A子にどう対応したらよかったのか、の二点であるが、今回は①について考えてみよう。
まず最初に思いつくものを挙げてみる。
・デイケア参加に対する拒否感
・集団への圧迫感
・作業への抵抗
・症状の出現
スッと思いついたものはこれらである。
理由や根拠が大切なので、なぜそう考えたかを加える。
そうすると新たなアイデアが生まれる。
・デイケア参加に対する拒否感
そもそも、治療者との関係性が築けていないことと、導入時の止む無しといったA子の様子を見ると、デイケアに参加することは本意ではなかった。
本人は嫌々参加しているのであるから、我慢できなくなった。
→怒りの表出
つまりA子は参加させられていることに怒っていたのだ。
→信頼関係が取れていない場面への緊張
A子は緊張をうまく表現・表出することができず、イライラという感覚で場を逃れようとした。
・集団への圧迫感
対人関係が不得手であるため、集団の中に所属するということが大いなるストレスになった。
→対人関係への過剰反応
対人関係を築かねばならないという強迫的な観念がA子を追い詰めた。
→周りの様子を見すぎて、落ち着かなくなった
同じようにせねばならないという思いや、どう見られているかという意識が緊張感を増長させた。
・作業への抵抗
復職目的であるA子は、塗り絵という単純作業に対して不満を感じた。
→評価を気にしていた
塗り絵という結果が出るもので、自分を測られていたり、どう塗っているのかを見られていると感じ苦しくなった。
→単純労働が苦手
同じことの繰り返しということや、アクティブでない作業が苦手である。
・症状の出現
状態が万全でなく、突如としてイライラという症状が出現した。
→聴覚が過敏で、話している他メンバーの声が我慢できなかった。
自閉症スペクトラム障害の可能性を考えると、話し声の選択的処理ができずパニック症状が出現した。
と、このように広がる。
では、次の発想法として、もし自分だったらどう感じるだろうと考えてみる。
・スタッフへの怒り
うるさくしゃべり続ける人がいるのに注意しないスタッフに失望と不快を感じた。
さて、私のメンターならばどうこの症例にこたえるだろうか。
・自分に注目してほしかった
A子は境界性人格障害の可能性もある。
中心は自分であり、大切にしてほしかったのだ。
→デイケアへの脱価値化
境界性人格障害の特徴のひとつは「理想化と脱価値化(こきおろし)」である。
A子は頑張って参加したデイケアが無意味なものとして脱価値化を行ったのだ。
・恋愛感情が起こった
イライラの対象となったメンバーはイケメンである。
普段は見られないほど当日喋っていたのは事実であり、A子への間接的なアプローチを行ったと考えられる。
それにA子もサインを送ったが、自分に注目してもらえなかったことで行動化を起こした。
→もっと自分に向けて話してほしかった
やはり中心となりたいので、他のメンバーよりも魅力的と思っているA子に、その男性が関心を示し、口説いてほしかったのだ。
さて、ここまで考えて、これはどうかなというものも挙げてみる。
・イライラの対象の男性は、自分の父親ないし祖父と重なった
男性に対する意識は生育を見るとネガティブなものである。
話し続ける「えらそうな」男性は、A子にとって祖父を想起させたのである。
→職場での人間関係のトラブルの再体験をしている
職場でのトラブルも同じように、「えらそうな」男性が対象であり、同じようにイライラを起こした
と、このように可能性が探求できた。
みなさまはもっと多くの可能性を探求されたかもしれない。
どれが正解なのかは、本人との対話の中でしか確認できず、また、本人も原因がわかっていないことが多いため、表面上納得できる形で消化していく場合もある。
これが、心理アセスメントの一例である。
あるタイプの心理家と称する方々は、この作業はされない。
最初から答えはひとつしかないと思っていらっしゃるからである。
私はこのように考えを巡らせる訓練を続けてきたので、この作業がとても楽しい。
これから心理職を目指される方、またさらに心理援助を深めたい方はぜひ実践してみてほしい。
心理関係でなくとも、対人関係をよりよくしたいと思っていらっしゃるみなさまにも、とても有効な考え方である。
答えの確認できない想像から始まり、次の段階はこのようなアセスメントを用いてさらに介入やアセスメントを深めていくのである。
こうして考えたことをもとに②の評価をしていくことがカンファレンスでも重要なのだ。
参考までに、架空事例A子に関するカンファレンスの終着点は、
恋愛感情が起こった
が最も支持される結果であり、恋愛感情からA子のアセスメントが深まり支援方針が策定されたことを付記しておく。
- 作者: ピアメロディ,J.K.ミラー,A.W.ミラー,Pia Mellody,J.Keith Miller,Andrea Wills Miller,水沢都加佐
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