逃れようのない苦しみに
連休中に懐かしい友人と会った。
とは言っても、二年ぶりである。
同じ精神保健福祉士を学んだ同窓であり、日陰者の仲間であった。
緩い結びつきで、離れていても友人が続く関係性だ。
二年前に会った時は彼が転職してすぐの頃であり、旧体質の精神科病院に入職したばかりであった。
二年ぶりにメールが入ってきたので、公認心理士の話などやり取りしていたら会って話が聴きたいとのことであったため、赴いたのだ。
待ち合わせは「むさしの森珈琲」。
が、入店に一時間以上かかるとのことで、星乃珈琲に移動。
恋人かと。
珈琲を啜りながら近況報告。
彼の話は心を締め付けられるようであった。
入職した旧体制の病院の方針に振り回されたという要約になる。
そもそもワーカーが補助看からの方一名のみであったため、主な業務は看護補助であった。
そこに同窓の同期が一名加わり、ワーカーとしての外来業務を開拓し、少しずつワーカーを増やしていったところに彼が入職したのである。
他科受診の動向や代理受診などの看護師が行う方が適している業務から、雑用までと多岐に富み、彼の疲労は蓄積していった。
さらに、院内の派閥による人間関係や、ワーカー同士の福祉感の押し付け合いと疲弊するには充分であったという。
10人近くいたワーカーは次第に辞め、彼と同期の二人になった。
業務量は一気に増え、何の仕事をしているかわからなくなり、ひどいうつ状態になった。
自傷が始まり、まもなく、自殺企図が起こった。
家庭もままならなくなり、別居。
昼夜逆転し、家には居られず徘徊。
ついに退職し、精神科病院に入院することとなったそうだ。
自殺企図を起こす前に連絡が欲しかった。
しかし、「とてもそんな心持ではなかった」そうだ。
追いつめられている状況で、助けを求めることは非常に困難だ。
脳はパンクしているので、系統的に物事を考えることが難しいうえ、常に悲観的になってしまう。
私が友人として定期的に連絡を取るべきだったのかもしれない。
しかし、彼はギリギリのところで踏みとどまり、入院加療を行った。
退院後も生活状況が変わることなく、自虐的に生活を続けた。
苦しみは変わらない。
「どうして自分はこんなに苦しいのだろう」
そう考えたのだという。
「働いていないことが苦しいのだ」
そう気づき、生活を立て直し就職活動を始めた。
もう、医療や福祉はコリゴリであると考え、自分の状態をオープンにし、主治医の意見書を持って理解のあるところを探す。
就職活動は困難であったが、ある工場のラインに就くことができた。
二週間前の話である。
今は働くことで日々回復している感覚がある。
別居も解消し、迎えに行った。
まだまだ、困難は続くが一歩づつ踏みしめていきたいということであった。
医療福祉に興味はないとのことだったが、区分Gでの公認心理士受験が可能である旨の説明を行い、懐かしいあの頃のような話題をつづけた。
どんな音楽を聴き、何をして過ごすのか、夢物語を語りシニカルに物事を批判し、笑いあった。
彼は精神を病み、私は腕に障害を受けた。
この二年は2人にとって大いなる変化をもたらしていたが、二人の関係は変わらないと感じることができた。
自傷・自殺企図を起こすことでしか逃れられない苦しみ。
それ以外を考えられなくなってしまう状態。
これからもずっとそのような苦しみにとらわれている人たちの救いになりたいと強く思う。
手を伸ばせない、差し伸べられた手が見えない、そういう状態のときに我々は何を提供できるのだろうか。
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