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ボトルネック(米澤穂信)の私的解釈

通勤時間に読書の時間が確保できたので、積読していた小説を手に取った。

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米澤穂信

ボトルネック

 

今更感は否めないが、アニメ「氷菓」で<古典部シリーズ>を知った私は、いい感じのにわかファンである。

ちなみににわかファンよろしく、氷菓が実写化されることには反対であり、きっと観ることはないだろう。

 

それはさておき、その時期に買いあさっていたものの、時間を理由に積んだままであった。

 

三時間弱で読了となったのだが、読後感がすさまじく、整理と共有のために情報を整理する。

以下、ネタバレを含むので未読の方は読了後にお読みいただきたい。

ボトルネックの登場人物

まず、登場人物を整理しよう。

 

重要人物としては

・嵯峨野リョウ

・諏訪ノゾミ

・嵯峨野サキ

・リョウの家族(父・母・兄)

兄はハジメ(始?)末子であるのはリョウ(了?)と推定できる。

これに対して月足らずで産まれたサキ(先?)は、露のように儚く産まれられなかったツユ(露)に対して違和感を感じる。

サキ=ツユはどこまで真実であろうか。

 

後半からキーマンとなるのは

・結城フミカ

フミカに関しては現実世界での描写が少なく、パラレルワールドのフミカと同一人物であるのかは疑わしい。

特に、カメラに関しては差異があると考えられる。

リョウに事細かに事故の経緯を説明するのであれば、リョウの表情をカメラに収めるのがフミカという人物像であろう。

 

考察が必要なのは

・川守と呼ばれたゲームをしていた子供

男か女かはわからず、年齢もよくわからない印象の子供である。

そして魔についての助言を行う。

オセロの一説にあるグリーンアイドモンスターを警告する。

グリーンアイドモンスターは嫉妬の魔物である。

誰の嫉妬がキーワードなのだろうか。

諏訪ノゾミの嫉妬なのか。

 

それとも

 

嵯峨野リョウの嫉妬なのか。

 

川守はツユなのか。

ツユにはリョウを守る使命があるだろうか。

私は川守こそ本当の諏訪ノゾミであると考える。

 

まずパラレルワールドについて

リョウはかすれ声が聞こえ(おいで嵯峨野くん)と呼ばれるところからパラレルワールドに入ってしまう。

かすれ声と呼び名を見るにあたり、諏訪ノゾミが呼んだと考えられる。

作中ではパラレルワールドと設定されているが、これは嵯峨野サキが提唱したに過ぎない。

現実世界でのリョウとノゾミの会話を振り返ると、「夢の世界」とも考えられる。

どちらにせよ、「おいで」と呼ぶノゾミの世界に入り込んだと考えていいだろう。

この世界でのノゾミは無敵であり夢の剣でないと傷つけられないのではないだろうか。

それはリョウが認識したノゾミの形である。

ということは、このパラレルワールドはリョウの夢の世界と考えてみよう。

グリーンアイドモンスターは死を望むリョウの、ノゾミや兄への嫉妬の魔物である。

1人になるということは、望みを失った喪失と、兄弟を失った現実の表れである。

東尋坊でリョウは真に一人になり、夢の世界へさまよいこんだのだ。

 

 

ボトルネック

リョウはボトルネックにならねばならなかった。

なぜか。

死ぬ理由が必要だからである。

ボトルネックになるために、自己の価値を下げねばならない。

もし、自分が居なかったら世界はもっと素敵なものになると考えなければならない。

そう信じ込ませるためにサキという善を作りだし、フミカという悪を設定した。

そうすることで、世界もノゾミも救われるのだ。

夢の世界なので、ノゾミは無邪気な悪意でなければ傷つけられず、守ることはできない。

夢の剣はフミカであり、それに気づき止められるのはサキでなければならなかった。

そうして、自分がボトルネックとなる事で、死への渇望を高めていったのだ。

 

イチョウの木

イチョウの木は、ノゾミとの現実世界での思い出である。

そして、イチョウの存在はノゾミとの愛のメタファーである。

イチョウの木を通じてリョウとノゾミはお互いを知り、知らないことを知った。

イチョウは関係性を暗喩している。

夢の世界でイチョウが切られているのは、善としてのサキのおかげである。

悪としてのフミカはイチョウを原因にノゾミを傷つけることによって、さらに精神的に追い込もうというわけなのだ。

さて、現実世界にもどったリョウはツユからイチョウの木を思い出すよう言われる。

夢から覚めたリョウに告げるツユは救いを求めるリョウの心である。

自分を追いつめるために設定されたイチョウの木であったが、イチョウは老婦人の愛の証。

現実世界ではノゾミとの愛の証であるイチョウの木が残っている。

 

まとめ

ボトルネックとなりたがっていたのは、嵯峨野リョウである。

パラレルワールドはリョウがボトルネックとなるための世界。

死ぬことができなかったリョウの嫉妬はグリーンアイドモンスターを生み出した。

どれだけ内的世界で自分を責めたとしても、現実世界は変わらない。

イチョウは今も存在し、葬儀は終わり、両親は不仲である。

ノゾミは存在せず、ツユ=サキは産まれてこなかった。

サキは後悔の念の象徴である。

リョウは変わらない現実を受け止めて生きていくことができるだろうか。

死への渇望に飲み込まれて、命を絶ってしまうのだろうか。

ボトルネックになりたがっていたのは自分であったと気付くことが出来れば、きっと苦難の道を歩み始めるだろうと思う。