おむえす

脳に栄養を

福祉と搾取

共同生活援助施設利用中のクライエントの診断書作成が回ってきた。

今般年金申請を行うとのことなのだが、主治医との関係性がとれておらず、年金申請の現症時診断書作成のための情報収集及び診断書作成ということであった。

予約が詰まっていたので、6時間後に再度来院してもらうこととし、一時間の面談枠を確保した。

診断書の作成用紙はお預かりしていたが、厚労省からのエクセルデータを用いて、面談しながら完成していく形をとった。

予定時刻30分前にご本人来院。施設職員が同行している。聴くところによると、初診時より常に同行し、代弁しているとのこと。

共同生活援助なので、グループホームと思うのだが、いわゆる福祉ホームから移行した同行援助が必要なクライエントなのかもしれないと予測し、場合によっては施設職員から情報収取を行う必要があるかもしれないと想定しておいた。

年金診断書には陳述者の氏名を記入する部分があるので、施設職員が陳述していただいても有効性は保証できるのである。

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一呼吸おいてからの一言がカウンセリングでは重要である

AI手法の進歩は目覚ましいものであり、今度は東京大学てんかんの脳波を検出するAIを開発したという。

http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20190131.pdf

先日もAIのお知らせをしたのだが、医療が革新的に進歩していく予感である。

 

さて、今日のお話は「一呼吸入れる」ということである。

クライエントへの対応は、まさに「今ここで」の出来事である。

クライエントの訴えに対して適切な対応や、素早い判断を下す必要がある。

特に、医療機関においては症状であるかどうかの鑑別を即座に行いながら面接を展開していく。

 

例えばこのような事例を見てみよう。

主訴「最近熱っぽい」

クライエント「なんだが熱っぽくて、体がだるくて頭もボーッとしてます」

セラピスト 「今日も熱っぽいですか」

クライエント「はい。朝から熱っぽくて、呼吸もしづらい感じがします」

セラピスト 「測ってみましたか」

クライエント「朝は37.2℃でした」

セラピスト 「風邪かもしれませんね。インフルエンザも流行っていますので病院を受診されてみてください」

 

さて、何の問題もないこのやり取り、どこに改善点があるのだろうか。

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どうしてわからないんだ!の対処法

人間とはわかってもらいたい生き物である。

わかってもらえないことは、悲しいことであり、腹が立つことでもある。

承認欲求の一部でもあり、他人から認められたいという気持ちの変性と考えて差し支えないだろう。

 

ところが、これが難しく、相手に伝わらないということが往々にして起こる。

 

「これくらい言わないでもわかってくれ」

「どうしてわからないんだよ」

「普通わかるだろう!」

 

といった思考の罠に陥りやすい。

 

では、どうしたら相手に伝わるだろうか。

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飲み会は心理的技術の披露の場である

心理的援助で重要なのは、クライエントの心的事実を受け止めることである。

求められる姿勢は傾聴であり、その訴えの奥底にある心を推察していく。

 

ある時、指導者に精神科は芸の世界であるといわれた。

様々な技を用いて芸を行うのであるという。

技は各領域における技術であり、例えば認知行動療法精神分析などがそれにあたる。

芸はその実践の場であり、クライエントとの関りで惜しみなく活用していくということになる。

我々は技を磨き、クライエントをある意味において幸福に導いていかねばならない。

 

心的事実はクライエントがそう感じているという事実であり、客観的事実との齟齬が生じていることは少なくない。

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確証バイアスの罠にはまらず検証を行う

人間は確証を持ったものを、選択的にピックアップする傾向が強い。

例えば、近所に有名なランチの店があったとしよう。

最近ではすぐにスマホで検索して評判を見ることができる。

某グルメアプリでは☆4であり、訪問ブログなどを読んでも好意的であなた自身も行きたくなるわけだ。

実際行ってみると、数十分の待ち時間を経てランチにたどり着く。

ブログで見たメニューを注文し、おいしいと感じているのではないだろうか。

もし、これがあなたの知らない、もしくは全く検索せずに立ち寄った店であればどうであっただろうか。

まず、数十分並ばねばならないことに抵抗を感じるかもしれない。

提供された料理は特別なものではなく、ランチの一つであり、どうしてこんなにも繁盛しているのか不思議に思うかもしれない。

ここに確証バイアスが少なからず存在している。

グルメアプリでは☆1や2をつけていた人もいただろう。

そこには「待ち時間が長すぎて…」や「スタッフの対応が…」など、否定的な意見もあったはずだ。

しかし、我々は自分が「おいしいに違いない」と思って調べているときは、そのような意見に目を通さなくなってしまう。

自分が得ている確証(=おいしい店だ!)を強化するための情報しか取得しなくなってしまうのである。

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認知的に今年の抱負を実現する方法

新年が始まるとクライエントと「今年の抱負」を立てている。

 

まず最初に昨年の振り返りから始める。

認知行動療法を取り入れながら行っているので、振り返りの一つ目はこうなる。

 

・昨年でよかったこと、できたこと、うれしかったことは何ですか

 

これを行うことで、全体をポジティブな印象にする。

自分のポジティブな面を探すことは、ネガティブな部分を探すよりもはるかに難しい。

認知の枠組みを変え、ポジティブに物事をとらえられるように導くのである。

 

次の振り返りはこうである。

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シュビングの傾聴

シュビング夫人をご存知であろうか。

 

なぜかあまり有名でないのだが、ゲルトルート・シュビングはスイスの看護師で、フロイト派の精神分析を学んだ。

著書「精神病者魂への道」に記されたシュビングの手技は「シュビング的接近」と呼ばれ、治療者がクライエントと共にどうあるのかを示している。

 

シュビング的接近は、シュビングが緊張症の少女アリスのベッドに毎日30分間、ベッドの側に静かに佇んだという「アリスの症例」に現れている。

アリスは保護室に入院しており、外界との接触を遮断していた。

毛布に隠れ、目も口も閉じたままであり、人工栄養によって命を繋いでいた。

シュビングがベッドに佇み始めて3,4日過ぎたころ、アリスは用心深く毛布から顔を出した。

シュビングは受け身の姿勢を崩さず、そっと見守った。

その翌日、アリスは口を開いた。

 

「あなたは私のお姉さんなの?」

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